東京事変の「スポーツ」CD レビュー

2010年03月04日

この人達は一体何処まで行くんだろう。

椎名林檎と亀田誠治という特別な才能に加えて

本作では伊澤一葉と浮雲もメロディーメイカーとして一皮むけた印象がある

刄田綴色は相変わらず熱いドラムを披露しているし

もはや完全に「椎名林檎のバンド」ではなく、「東京事変」としての傑作。
文句無しの金メダル級アルバム。

非常にスポーティというか、スタイリッシュな仕上がり。
爽やかでいて、なお且つ適度にアクもあり、切れ込み鋭い。
メロディはキャッチーでもあり、耳馴染みも良し。
疾走感が良いね。実に"Rock"です。

心にじわっと広がったり、ドキドキハラハラしたり。
技巧の素晴らしさは勿論、バンドの一体感を強く感じられる1枚。
沢山の人に聴いてもらいたい。

私は東京事変を音楽で会話ができる数少ないバンドのひとつだと思う。

会話には2種類あって、作品をリリースする際の聴衆との「こんなのはどーだ?」という会話と、メンバー間、楽器間で「こう来たか、じゃあこうだ」というような音楽を使って繰り広げる会話だ。

私はこれらの会話を感じるとき、今を生きているという喜びが湧き上がる。確実にこの時代を、この瞬間を彼らと共有しているという実感が得られるからだ。なんと幸せなことか。彼らの音楽センス、高い技術、「新しいこと、面白いことをやってやろう」という意欲、チャレンジ精神がこの会話を生むのだろう。

後者の会話というのはジャズのお家芸である。最近の事変はジャズの要素が目立つという批評を聞くこともある。ある曲ではQueenと似通った要素も見られる。いろんな変化があるが、彼らは確実に音楽の本質に近づいていると私は感じている。その変化に接している自分にこれまた幸せを感じる。

林檎女史の作曲が少ないため、彼女の持つ強いメロディーが少ないが、それに匹敵するだけの新しい試み、面白い音楽が随所にみられる事変好きにはたまらない作品集だ。

歌詞カードの文字を見るだけでも美しい。
前作「娯楽」では女史はただ唄い手冥利についていらしたが
今回はメンバー全員「行けるとこまで行ってみよう」と音を鳴らし合った結果、歌詞は最後につけられたとか。
そんなことも微塵とも感じさせないリリック、響き。

そして発声された音を聞いても美しい。
さらにバンドの音が重なって、素晴らしいロックバンドの完成。
そこには、力強い美しさが存在している。

1、『生きる』 作詞:椎名林檎 / 作曲:伊澤一葉
オープニングを飾るボーカル多重録音のギミックを多用した曲は、
鍵盤の一葉が作曲担当、なかなか凝りに凝った構成で楽しませる。

2、『電波通信』 作詞:椎名林檎 / 作曲:伊澤一葉
同じく一葉の作曲のハイセンスなデジタルロックの傑作!
既に事変ファンのコミュでも人気No.1の評判で、めっちゃインパクトがある曲。
ベースの亀ちゃんが今回も切れまくりなんですが、とくに異常なほど切れまくり。

3、『シーズンサヨナラ』 作詞:浮雲 / 作曲:浮雲
こいつ、また凄いインパクトの曲を持って来ちゃいましたね・・。傑作。
この唄の流れから切ない表現といい、林檎に唄わせることを前提とした完璧な構成。
アレンジも面白く、単純でカッコええ亀ちゃんのベース、ギターの複雑な絡み、
ピアノの流麗な速弾きソロ、 唄って手応えあるキャッチーさ、本当に面白い魅力満載の曲。

4、『勝ち戦』 作詞:椎名林檎 / 作曲:椎名林檎
出来栄えとしてはまま、普通な印象かも。海外のアーティストにはよくある曲だと思う。
歌詞が翻訳してみるといい歌詞の内容なので、日本語にした方がインパクトあるかも。
でも完成度はもちろん高いし、本人たちのこだわりも、アレンジの凄さも感じられます。

5、『FOUL』 作詞:浮雲 / 作曲:浮雲
こりゃまた強力なハイスピードナンバーで、浮雲のセンスの良さが感じられる。
特にコードワークが素晴らしく、言葉遊びの歌詞が流れるようにすっ飛んで行く様が素晴らしい。
簡単に唄えて、でも変化を感じて、勢いがあって、楽しい。
熱く唄って、疾走感を存分に楽しんで欲しい曲。
たった2分半にこの構成を収めた浮雲に感服。

6、『雨天決行』 作詞:椎名林檎 / 作曲:伊澤一葉
ポップテイストとほんのりジャズ風味の明るい曲調は、一葉の真骨頂。
林檎の声質がいつもと全く違って、あんまりにも透明。笑
これはやっぱし、ミックスの井上うにさんの魔法かと思うけど、
歌詞の素直さにも最近の林檎らしさがあって、とってもいい組み合わせに思う。

7、『能動的三分間』 作詞:椎名林檎 / 作曲:椎名林檎
先行シングル曲。このシングルには5月のツアーチケットの応募券がついてた。
はずれたけど。

8、『絶対絶命』 作詞:椎名林檎 / 作曲:椎名林檎・伊澤一葉
恐らく林檎主導で作曲、唄のアレンジを追求する内に一葉と共作することになったぽい楽曲。
複雑なコードワークは恐らく一葉の手によるものと考えられる。
面白い構成のコード進行は、人によってはクセになる魅力があるのでは。

9、『FAIR』 作詞:椎名林檎 / 作曲:浮雲
今回唯一の林檎・浮雲のカップリング曲。いいねぇ。大好き。
浮雲のギターフレーズもソロもジャズロックな魅力満載で、
唄メロもくどいくらいのジャズコード進行に乗って唸るとこが最高。
歌詞もシュールで渋くて、暗示的でかっこええ。
月空の下で聴いていたい。

10、『乗り気』 作詞:椎名林檎 / 作曲:伊澤一葉
これは一葉の変化球ナンバー、超短いエレクトロプログレッシブロックですね♪
3分未満の中にこんだけ色んな展開をぶっこんで、シンセなキーボードソロまで盛りだくさん。
勢いがあって楽しい曲だけど、かなり高度な構成で作られてる佳曲です。

11、『スイートスポット』 作詞:椎名林檎 / 作曲:椎名林檎・伊澤一葉
これも恐らく林檎作曲をフォローする意味で一葉と共作になったと思われる。
林檎の唄が非常にテクニカルかつ、表現力が高いので素晴らしい完成度です。
ギターフレーズやソロがエリック・クラプトンっぽくて、ちょっとビートルズの
ホワイル・マイ・ジェントリー・ギター・ウィープスを思わせるところも林檎趣味炸裂。笑
よい意味で60年代~70年代のブリティッシュ、アメリカンロックの影響を反映した楽曲です。

12、『閃光少女』 作詞:椎名林檎 / 作曲:亀田誠治
2007年に既発表済みの亀ちゃん作曲ナンバー。
色褪せぬ魅力満載のドライビングナンバーですね。これ以上言うこと無し。

13、『極まる』 作詞:浮雲 / 作曲:浮雲
ラストを括る楽曲は、浮雲のギターがジョージ・ハリソンみたいに響くスルメ曲。
歌詞もなんか何云ってるか判らん魅力あって、こいつもヤバいね、ハマりそうw
思わず目を瞑ったまま、ぼ~~~っと時が過ぎていく、あの感じ。


ライブ映えする曲がそろっている感じがする。
ということはフィジカルを大いに刺激。
耳から入って筋肉へ電気信号が送られる。
脳内には快感物質が溢れこの上ないハイテンション。
その勢いで身体を心を揺らす。揺らしたい。

これだけ捨て曲が無く、どれがシングルになっていてもおかしくないアルバムに出会えるのは貴重。
いつでも聴きたい音楽として傍らに置いときたい感じがする。

あえて“最高”傑作にしなかったのは次回作への期待。



Posted by 春清花 at 15:50